これらの症状の原因は脳の変性であり、この脳は肉眼では正常に見えるかもしれないが、顕微鏡下では特徴的なTSEの様子を示す。
灰白質は、多数の小さな穴ができて海綿状貫(スポンジ状)になっている。 さらに「スクレイピー関連線維」と呼ばれる不溶性の物質がまだらに沈着して、これが正常な脳組織を破壊するのである。
H・D・CとA・Yの二人は、一九二0年代の初期にドイツでそれぞれ別々に、スクレイピーに相当する人間の病気、クロイッフェルトーヤコブ病(現在、CJDと呼ばれる)を見つけた。 この病気は世界中に存在し、毎年およそ一00万人に一人がかかっている。
この病気の受難者は一般に老人であり、六か月以内に痴呆で死ぬ。 どのようにCJDが自然に広がるのかは謎であるが、これが潜伏している人たちからそれと知らずに取られた汚染された臓器からときおり伝染することから、この病気が感染病のように伝染しうることは確かである。
たとえば、CJDは失明の治療における角膜移植によってレシピエント(被移植者)へと移されたし、脳手術の際の膜移植によって、また人の脳から調製された成長ホルモンの注射によっても移された。 他にもいくつか人間のTSEがあり、それらはどれもまれなものであるが、とりわけ興味深くて有名なものはクールーである。
一九七六年にクールーの研究でノーベル賞を勝ち取ったアメリカの小児科医、D・C・Gがオーストラリアへ行ったのは一九五五年のことである。 彼の目的は、メルボルンにあるW・A・E・H研究所で免疫学者のS・M・Bと仕事をすることであった。

彼がオーストラリアに着いたとき、たまたまBがパプア・ニューギ二アから戻ってきたところであった。 Bが会ってきたのは東部高地のフォア語を話す部族の人々であった。
彼らはクールーと呼ばれる致死性の神経病に苦しんでいた。 フォア語でクールーという言葉は、「怖がる」あるいは「震える」を意味し、この病気が出たときに現れる精神の不安定と体の震えの状態をよく描写している。
明らかに、クールーは主に女と子供にかかる新型の病気であっただけでなく、当時は彼らの間で最もありふれた死の原因であった。 Gはこの話に興味をそそられたので、自分の目でこの病気を見てみようと決心した。
彼はこの部族とともに一0か月間生活し、彼らの慣習や風習を調査した結果、クールーはたぶん遺伝性の病気であろうと結論した。 彼は一九五七年にアメリカに帰り、そこでクールーの研究を続けた。

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